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知らないと怖い労働審判

  皆さん労働審判という制度はご存じでしょうか。サラリ-マンの方は知っておいたほうがいい制度です。表題の「知らないと怖い」という表題は、労働者側ではなく会社側から見たイメージです。

  今回は昨年度下半期に当職が数多く受任した労働審判事件を取り上げます。平成18年に労働審判法が制定され、同年4月から労働審判制度が導入されました。この労働審判制度とは、

「個々の労働者と事業主との間に生じた労働関係に関する紛争を、裁判所において、原則として3回以内の期日で、迅速適正かつ実効的に解決することを目的として設けられた制度」です。これをお読みになっている方には、まだなじみのない制度かも知れませんが、例えば①会社の事情で解雇されたが解雇の理由がわからず納得がいかない、②残業代を会社がきちんと払ってくれないまま退職してしまった、③会社がきちんと退職金を支払ってくれない、といったケースでは非常に有用な制度です。

 では労働審判制度はどのような特徴があるのでしょうか。

 まず、事件の迅速性です。とにかく早い。労働訴訟の審理期間が平均で1年2ヶ月(14ヶ月)くらいといわれているところ、労働審判の審理期間は2ヶ月半です。特に東京の場合審理期間はもっと短いのではないかという印象があります。昨年の後半に入ってから当職は東京で2回、労働審判で初回期日での和解成立を経験し、いずれも100万円を超える支払いを受けました。労働審判制度では主張立証は第2回期日まで提出できることになっています(労働審判規則27条)が、東京の場合には、第1回期日までに提出される申立書や答弁書及びその添付証拠に提出書面を限定し、その後の補充書面を認めないという実務的な取り扱いをしているようですので、第1回期日までの準備を慎重に行う必要があります。とりわけ答弁書が出てから第1回期日までの間(およそ7日間)の準備は万全を期す必要があります。平たくいえばこの間の準備で事件の勝敗が決まってしまいます。

 次に、裁判所側の構成が通常の訴訟や調停と異なります。労働審判は裁判官である労働審判官と、労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名の合計3名で構成される労働審判委員会で行います。労働審判員は労働者側及び使用者側から各1名ずつ選出され、それぞれの立場を踏まえて公正かつ中立な判断を行います。

 そして、この制度には早期解決を前提にした柔軟性があります。各当事者の書面による主張立証を前提に、第1回期日から労働審判員及び労働審判官から、事案に即したかなり踏み込んだ質問が両当事者に浴びせられ、各当事者はその場で即答しなければなりません。ある程度事件を見てきた私としてはとりわけ会社側には核心に触れたかなり厳しい質問が来るのではないかという印象があります。このような質疑を前提に早期の段階で裁判所側で心証が形成されれば、その場で解決案を提示してくることもあります。その解決案は当事者の実情に即した迅速な解決を主眼とするものであり、「審判」による解決の前に和解による解決を目指します。3回の期日の中で和解による解決が難しいということになれば労働審判官が、それまでの主張立証内容を踏まえて期日の中で労働審判を行います。労働審判成立後2週間以内に異議が出なければそのまま確定しますが、異議が出れば通常訴訟に移行します。この場合、労働審判の申立時に労働審判が申し立てられた地方裁判所に訴え提起があったものと見なされ、事件そのものが引き継がれる訳ではありませんが、労働審判と訴訟との連携が図られています。

 それではなぜ平成18年に労働審判制度が導入されたのでしょうか。従来、労働関係を巡るトラブルについての解決方法としては①労働基準監督署による指導是正勧告②都道府県労働局による斡旋③労働訴訟などの裁判手続、がありました。しかし、基準監督署の是正勧告は会社に対する指導にとどまり労使間の解決に直接結びつくものではない上、斡旋には法的拘束力がなく会社側がこれを拒否することもできるため、会社側と労働者側とで意見が食い違っている場合には斡旋は有効な解決策にはなりません。また、労働訴訟の場合、第1審での審理終了までにかなりの時間がかかり、その上控訴されればさらに時間がかかってしまいます。労働審判制度はこのような難点をふまえて労使間の個人的なトラブルを簡易迅速に解決することを目的に導入されました。

 では実際にこの制度がどれくらい利用されているかといいますと、開始当初の平成18年は全国で900件弱でしたが、徐々に件数が増加し、現在では全国で3700件前後に達しています。申し立てられている事件の種類についていえば、解雇無効を争う事件、時間外労働手当

を求める事件が多くを占めており、この2件で全体の8割に達するそうです。

 当職も、5年ほど前に会社側の代理人として初めて労働審判に関わりました。遅刻が多い、平気で会社を休む、嘘をつくといったかなり問題のある従業員が相手でした。社員数の少ない会社でしたので就業規則は作成されていなかったのですが、解雇理由書を会社が内容証明で送り、相手が受け取ったところから事件がスタートし、従業員側の申立により労働審判が開始されました。

 労働審判の事件のスピードは通常の訴訟のイメージとは異なるものです。3回の期日で判断される、実際には2回目の期日が終わったところで大勢は決まってしまいますので、1回あたりの事件の密度が濃いし、相当充実した主張立証を行わなければ太刀打ちできない、これは労働者側使用者側双方にいえることですが、特に使用者側会社側は注意する必要がある、ということです。更に、会社側の代理人として立ち会った印象からすれば、これは従業員にかなりのアドバンテージが与えられている制度です。2回の期日の後3回目に裁判所から和解案が提示されたのですが、提案内容は、事案の内容からすれば当職の想像を超えた金額の支払いでした。その提案内容を蹴ることも考えたのですが、仮に蹴って労働訴訟に持って行った場合に、提案内容の金額よりも下がる保証はどこにもない、むしろ更に金額が上昇する事もありうると、裁判官から説得されたんですね。例えば、労働訴訟で解雇無効を主張した場合、解雇後事件解決までの間の給与相当額の支払いを併せて主張しますが、事件解決が伸びる結果、審判で解決するよりも金額は上昇します。また、時間外賃金の請求をする場合には、労働訴訟の場合、付加金という形で二重に請求ができることになります。裁判官からの説得内容を踏まえ審判の最中に依頼者と待合室で話し合った結果、今の段階で手を打った方が良いと考え、不承不承ながら裁判官の提案を吞むことにしました。2回の期日間にどこまで内容の濃い主張立証ができるか、それができなければ悲惨な結果になる、これが初めての労働審判を経験して当職が得た教訓です。

 表題の通り、労働審判制度は就業規則がないなど法的整備の不十分な会社にとっては恐るべき制度です。ですから会社にとっては「知らないと怖い」制度なのです。

 

コメント: 1 (ディスカッションは終了しました。)
  • #1

    Teofila Henegar (木曜日, 02 2月 2017 01:36)


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