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労働審判で争われるテーマ

 前回に引き続き労働審判を取り上げます。前回は総論的な内容を書きましたので、今回は

各論に入ります。労働審判で取り上げられる個々のテーマについて検討していきます。

1 解雇無効に伴う従業員としての地位の確認

 会社側は解雇理由書により解雇を主張しますが、その解雇理由に法的根拠があるかどう  

 かが問題です。会社内に就業規則があれば、その就業規則の中の解雇事由に該当していく 

 かどうかを吟味していくことになりますが、会社に就業規則が備えられていない場合には 

 解雇理由書に記載されている解雇理由は労働契約法16条に違反する可能性が高いと思わ

 れます。因みに労働契約法16条は「解雇は、客観的に合理性を欠き、社会通念上相当とい 

 えない場合には、その権利を濫用したものとして無効とする」と規定しています。同条は 

 就業規則がある場合の解雇事由の解釈基準としても意味を持ちます。

  解雇無効となれば従業員としての地位の復権が問題になってくるので、解雇後解決日ま 

 での賃金相当の損害額を合わせて主張することになります。

2 時間外賃金の主張   

     「うちは残業させないから」と社長が言っているような会社にも時間外賃金は発生する可 

 能性があります。

  労働基準法第32条第1項では「使用者は労働者に休憩時間を除き1週間について40時間を  

 超えて労働させてはならない」と定め、同条第2項では「使用者は1週間の各日について 

 は、労働者に、休憩時間を除き一日について8時間を超えて労働させてはならない」と定め 

 ております。1日の労働時間は8時間まで、それを超えたら残業、という構図はご理解いた

 だけると思うのです。しかし、1週間について40時間を超えて働いている場合、例えば月曜 

 から土曜日まで週6日勤務したという場合には40時間を超えた分については時間外手当が付

 きます。もちろん例外もあります。それは、事業場における時間外・休日労働協定(いわ

 ゆる三六協定)が結ばれている場合です。使用者は事業場の労使協定を締結し、それを行

 政官庁に届け出た場合には、その協定の定めるところにより労働時間を延長し、または休 

 日に労働させることができることになります。以上は労働基準法第36条第1項に規定されて 

 いますが、このような三六協定が結ばれている場合には、労働者は労働契約上の時間外労

 働義務を負うことになります(最高裁判所平成3年11月 

 28日判決日立製作所武蔵工場事件)。

  このようにして認められる時間外労働賃金は遡って2年の範囲内で認められます。言い換 

 えれば時間外労働手当を含めた賃金は2年の消滅時効にかかります(労働基準法115条)。

  次に、時間外労働手当の計算方法を示します。

  まず、時間外労働手当の計算について説明していきましょう。時間外労働手当は通常の

 労働時間又は労働日の賃金に割増率をかけて算出します(労働基準法37条)。通常の労働

 時間又は労働日の時間の計算方法は労働基準法施行規則第19条に記載されており、時間

 単価に残業時間を乗じることで算出されます。

  ですから 残業代は 時間単価×残業時間×割増率 で算出されることになります。

  では、時間単価、残業時間、割増率をどうやって算出していくか。それぞれの項目に分 

 けて説明していきます。

   時間単価は月額で定められた賃金を月平均の所定労働時間で除したものです。

  「月額で払われている賃金」は基礎賃金のことであり、支払われている給与から「手  

 当」として支給されているものや賞与などは除かれます。

  月平均所定労働時間は次の式で計算されます。

   (一年間の日数ー年間所定休日数)×1日の所定労働時間数÷12

  ここで問題となってくるのは年間所定休日数をどのようにして割り出すかです。おおよ 

  その計算としては、年52週で週に2日休めるとして合計104日、国民の祝日が年に15日 

 (国民の祝日に関する法律、なお2016年からは8月11日の「山の日」が追加され合計16

  日となります)、ここまでで合計119日になります。更に会社の採用条件あるいは就業規

  則において年末年始お盆などを休日として採用した場合、勤務先の年間所定休日は125

  日程度になる可能性があります(会社ごとに条件は違いますからあくまで目安です)。

   仮に年間所定休日が125日だとすると、年間の所定労働日数は365-125=240日

  月あたりの所定労働日数は240÷12=20日

  そうしますと月平均の所定の労働時間数は20×8=160時間ということになります(この 

  数字は年間所定休日が125日の場合のモデルケースであって、この数字が常に当てはまる

  わけではないのでご注意下さい。)この月の所定労働時間を超えた時間が時間外労働時

  間ということになります。

   次に時間単価の計算です。   

  月の賃金を月平均の所定労働時間数で割ると時間あたりの単価が出ます。例えば賃金 

  30万円のケースでは300,000÷160=1,875円 時間あたり単価は1,875円となります。

  そして割増率についてですが

     時間外労働手当(午後10時以前)は 時間単価×超過時間×1.25

     深夜労働手当(午後10時以降)は  時間単価×超過時間×1.5 で計算します。 

   計算根拠は労働基準法第37条第1項第4項です。  

  このような計算式をベースにタイムカード、業務日報などをもとにした正確なデータを

  各月ごとにエクセルなどの表計算でまとめ、時効にかかっていない時間外労働手当の総  

  額を請求します。先に述べた通り労働訴訟に進んだ場合には時間外労働手当は付加金と  

  いう形で二重に請求できる事になります。

3 退職金の請求

  請求にあたり必要になってくるのは、就業規則、退職金規程、退職金係数表、退職金計 

 算書です。客観的な資料が入手しやすいので他の請求に比べると計算はしやすいと思いま

 すが、退職金の金額について会社側の計算は往々にして会社側にとって有利、退職者に 

 とって不利に計算されているので注意が必要です。

4 慰謝料

  労働審判において慰謝料を請求するケースがあります。解雇無効、事実上の解雇といっ

 た形でやめされられるあるいはやめるにあたり多大な精神的苦痛を味わったとの理由で請

 求するケースが私が担当した中でもありました。ただ、労働審判は短期決戦でありご本人 

 の陳述書以外に「精神的苦痛」を客観的に証明できる証拠が第1回期日までにでてこないと 

 認めてもらうのはなかなか難しい、というのが私のこれまでの印象です。通常の訴訟でも

 慰謝料の額は請求額からかなり削られてしまうのが一般であり、労働審判の場合にはさら

 にハードルが高くなると思われます。

以上、労働審判で議論されると思われるテーマをご説明しました。個々の事件の金額には差があるものの、労働者側の代理人としては全員支払いを受けてきました。ご参考になれば幸いです。 

 

  

            

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